大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和46年(ラ)15号 決定

抗告人 池野欽三

みぎ代理人弁護士 野村光治

相手方 斉藤学

みぎ代理人弁護士 清水尚芳

山崎忠志

主文

原決定を取り消す。

京都地方裁判所が同庁昭和四四年(ヲ)第四七六号商標権譲渡命令申請事件について昭和四五年一月一二日にした譲渡命令を取り消す。

譲渡命令と本件抗告との費用は相手方の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨と理由は別紙のとおりである。

二、当裁判所の判断

(一)  本件譲渡命令に対する不服申立の方法

譲渡命令(民訴法六二五条)は、執行の方法としてなされるものであるから、これに対する不服は、民訴法五四四条の異議によるべきである。ところで、民訴法五四四条による異議は、執行終了後にはできないから、本件譲渡命令が、債務者である抗告人に送達することにより、その執行は終了し異議の申立は不適法になるのではないかとの疑問が生じる。原審はこの点について、異議の申立を不適法と解しているが、当裁判所はその見解を採用しない。その理由は次のとおりである。すなわち、譲渡命令を発出すべきでないのに、発出したというような譲渡命令自体を無効ならしめる手続上の瑕疵がある場合には、形式的には譲渡命令の発出によって執行手続は終了しているかのようであるが、実質上譲渡命令本来の効力がなく、従ってこの場合には差押命令だけが有効に存続しているだけである。とすれば、この意味ではまだ執行は終了しておらず、債権者は適法な移付命令を得なければならない法律関係におかれているわけである。そこで、利害関係人から、このような譲渡命令に対する異議の申立を認めて、この無効な譲渡命令を取り消すことによって、法律関係を明らかにし、無用の紛争をさけしめる必要がある。執行終了を理由に、この異議は勿論のこと即時抗告も認めないとすると、当事者は別訴で譲渡命令の無効確認を訴求することを強いられる。裁判所が発出すべきでない譲渡命令を発出しながら執行の終了を理由に執行法上の簡易な救済方法、不服申立方法を閉ざし、別訴によれというのは、到底納得のいく理屈といえないし、利害関係人の救済に欠けること最たるものがある。以上の理由により当裁判所は譲渡命令自体が手続上無効のときには、譲渡命令に対し執行方法の異議の申立を認め、これによって違法な譲渡命令を取り消し、執行手続を是正することができると解する。

(二)  本件譲渡命令の効力

本件記録によると、本件譲渡命令の目的である商標権について、他に仮差押権者のあることが明白である(京都地方裁判所昭和四四年(ヨ)第三三八号事件債権者石川元康、債務者抗告人、決定日昭和四四年六月五日)。なお相手方がみぎ商標権について差押命令を得たのは、同年九月一八日である。そうして相手方の債権が石川元康の債権に優先することが認められる資料はない。そうすると、本件譲渡命令は、石川元康の仮差押のあるのを無視して発出された点において無効であることは、多言を必要としない。

(三)  むすび

以上の次第で、本件譲渡命令は取り消されるべきであるから、これを求める抗告人の異議は正当であり、本件抗告は理由がある。

そこで、民訴法四一四条、三八六条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三上修 判事 長瀬清澄 古崎慶長)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例